はじめに
2022年1月5日、東京ドームにて新日本プロレスのビッグマッチが行われました。
IWGP USヘビー級選手権試合、王者KENTA vs 挑戦者棚橋弘至というカードでした。
試合ルールはノーDQマッチ(反則裁定なし)の試合で凶器攻撃、場外カウントなし、反則攻撃OKという試合です。
結果は棚橋選手が特大ラダーからハイフライフローon the tableで勝利、見事王座奪還という結果になりました。
試合は壮絶な展開となり、まさに死闘といった内容でした。
すると翌日、新日本プロレス公式からこんなアナウンスがありました。
引用:新日本プロレス公式twitter
中でも特に大きなケガが股関節後方脱臼骨折だと思います。
今回はこの股関節後方脱臼骨折ってどんなケガなの?
というテーマで体の専門家が解説をします。
どんなケガ?
さて、股関節後方脱臼とはどんなケガなのか。
肩関節脱臼は聞いたことがあると思います。
2021年のG1クライマックスで飯伏幸太選手がケガしたのが、肩関節脱臼です。
でも股関節(後方)脱臼は聞き慣れないケガだと思います。
そうなんです。
肩関節は人の体の中で最も可動範囲が広い関節のため、関節自体は緩めに構成されており、外れないように細かい筋肉や靱帯、関節包や関節唇と言った様々な組織で骨同士を繋ぎ合わせています。
なので、自由度が高い分外れやすいのです。
肩関節脱臼は子供が手を引っ張られた時や、一般人でも転んだ拍子に手を着いた時、ラグビーでタックルした時など、いろんな場面で発生します。
一方で股関節は大腿骨の頭(大腿骨頭)が骨盤(寛骨臼)にハマり込んでいるため関節がしっかり安定しています。
さらに股関節には人の体の中で1番強い靭帯などがしっかり補強しており、骨同士がしっかり引っ付くように出来ています。
だから余程のことがない限り脱臼はしにくい関節なんです。
発生する場面としては、高い所から落ちた時や車乗車時に正面衝突した時などに発生します。
要はかなり強い外力が大腿骨を介して股関節に伝わり、関節から大腿骨の頭が外れるということです。
このケガは高所で作業をしてて落下したり、大きい交通事故ぐらいでしか発生しにくいため普段はあまり聞き慣れないケガなんです。
Thompson & Epstein分類
股関節脱臼には医学的分類があります。
今回のKENTA選手がどの程度の脱臼なのかわかりませんが、正式には「後方脱臼骨折」とアナウンスがあったので、ただ外れただけでなく骨盤側の「カサ」になる部分(寛骨臼)の一部が折れて股関節が外れたと思われます。
KENTA選手の詳細はわからないのですが、以上が簡単にですが股関節後方脱臼骨折の概要になります。
大丈夫なの?
先ほど発生機序を説明しましたが、今回のケガは
・ラダーから落ちた時
・机の上でハイフライフローを受けた時
のどちらかで受傷したと考えられます。
高所からの落下時に足を着いて、強い衝撃で股関節が脱臼したのか、
または、机の上でハイフライフローを受けた時に机は真ん中で折れるのでKENTA選手の体は股関節を軸にくの字に曲がりますよね?
あの際に曲がった股関節に100kg以上の人が高い所から降ってきたことで大腿骨頭が後方に押し出された、という事も考えられます。
どっちかで発生したのか、その2つがあったことで発生したのかはわかりません。
「あんな高い所から落ちたり、ボディプレスを食らって、大怪我をして大丈夫?!」
と心配するファンの方も多いと思います。
今回のケガはあまり聞き慣れないし、股関節が脱臼するなんて一大事だ!と思うのは当然です。
脱臼骨折の状況によって、はめ込んだら後は安静にして終わりということもあるし、手術をしないと関節が治らないという事もあります。
KENTA選手がどうかはわかりませんが、骨折を伴っているので手術をしないにしてもしばらく松葉杖で脚を浮かして生活することになると考えられます。
要は荷重をかけてしまうと折れた骨がさらにズレたり、引っ付きが悪くなったりするんです。
荷重を避けることで骨は自然に引っ付くため股関節は安定します。
しかし、問題なのが脚に体重をかけない生活をしていた分
・片脚立ちのバランス不良
・股関節の可動域制限
などが発生します。
これはKENTA選手に限らず、どんな患者さんでもこのような現象は起きやすく、安静期間が長い程回復に時間がかかる傾向にあります。
自分ら理学療法士はこのような状態に対して機能回復を目標にリハビリを行っています。
松葉杖がいらなくなったからといっていきなりは走れないし、ジャンプも十分にできません。
だからリハビリをするんですね。
最後に
今回のKENTA選手のケガはかなりの大怪我であることは間違いないし、ファンとしてはショッキングな事だったと思います。
そんな中でもやはりプロレスラーって強いんだな、と思った場面があります。
それは、股関節が脱臼骨折しているにも関わらず歩いてバックステージまで戻ったことです。
あんなの痛くて歩くのは大変ですよ、普通は。
理学療法士の自分から見ても、プロレスラーは一般人とは体が違うんだなあ、と感じた場面でした。
それはそうと、レスラーはそれだけ体を張って戦っているということも同時に理解できた一戦でした。
まずはKENTA選手の回復を応援するのと、常に選手の皆様にはリスペクトの気持ちを忘れないようにしていきたいですね。
それでは今回はこれで終わりです!
ありがとうございました(^^)
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