飯伏幸太選手のケガについて

選手の身体機能

はじめに


引用:njpw.co.jp

新日本プロレス秋の祭典、G1climax 31が先日終了し、オカダカズチカ選手が見事優勝を果たしました。

決勝戦のカードが
【7年ぶり3度目の優勝を狙う】オカダカズチカ選手 vs【史上初3連覇を狙う】飯伏幸太選手
というなんとも激アツな対決になりました。

結果は前述の通り、オカダカズチカ選手が優勝を果たしましたが、決着がまさかのレフェリーストップだったのです。

簡単に説明しますと、試合終盤、倒れたオカダ選手に対して飯伏選手がここ1番で見せる【フェニックススプラッシュ】を放った時のことでした。

オカダ選手がギリギリ避けて、飯伏選手が自爆してしまった際に右肩を負傷してしまい、レフェリーストップで試合に決着がついたのです。

多くのファンが期待をしていた試合なだけに、まさかの結末に驚かれた方も少なくないと思います。

後日、新日本プロレスから飯伏幸太選手のケガは【右肩関節脱臼】と発表があり、精密検査を今後行う予定とのことでした。


引用:東スポweb

飯伏幸太選手の療養、復活を待ちたいと思いますが、
なぜ右肩が脱臼してしまったのか?そもそも脱臼とはどんな状態なのか?
体の専門家としての知見を元に解説したいと思います。

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脱臼って何?

肩関節は簡単に言うと、肩甲骨、上腕骨、鎖骨の動きで成り立っています。

それぞれが靱帯や関節包と言った硬い組織や袋に覆われて関節を構成しており、それぞれの骨がバラバラにならないようになっています。

骨同士の繋がりがなくなってしまった状態を脱臼といい、完全には外れていないけどズレてしまった状態を亜脱臼と呼びます。


引用:日本整形外科学会

特に多いのは肩甲骨と上腕骨の繋がりがなくなる脱臼で、肩関節脱臼はこのことを指すことが多いです。

この脱臼は前方脱臼と後方脱臼と大きく2パターンあり、その約90%が前方脱臼と言われています。
玉井和哉.肩関節周辺の骨折と脱臼.整形外科クルズス.第3版.1997

前方脱臼になりやすいポジションがありまして、肩関節が外転(横に開く)、外旋(外に捻る)、伸展(後方へ伸ばす)方向へ強い外力がかかると脱臼しやすいです。

多くはスポーツや転倒などによる強制的な外力によるものです。

脱臼した際に関節包や周囲の筋肉の損傷、大結節(上腕骨の出っ張ったとこ)や関節窩(肩甲骨の上腕骨がハマるところ)の骨折が起きたりします。

場合によっては整復されても再度脱臼してしまったり、関節が安定しなくなるため手術が適応になったりします。

そうなんです。
脱臼と言ってもハマれば良いわけではなく、いろんな後遺症が出る可能性があるのです。

飯伏選手はなぜ脱臼したの?

先程説明したように、肩関節脱臼は前方に脱臼するパターンが多いと言われています。

前方に脱臼するポジションが写真のような姿勢です。

肩の動きとしては、野球のピッチャーが振りかぶって投げる前の姿勢に近いです。

この姿勢で強い外力が加わると前方に脱臼します。

以上を踏まえて問題の飯伏選手の受傷シーンを見てみます。






引用:njpwwprld.com

オカダ選手に避けられて正面から受け身を取る際に右腕が横に開いているのがわかります。

まさに右腕が脱臼しやすいポジションになってますね。

ましてや2m以上の高さから飛んで捻りを加えながら前回りして落ちるわけですから、相当な遠心力もかかっていると予想されます。

そのためかなりの外力が肩関節にかかり脱臼に至ったのではないかと考えます。

ちなみに、しっかり受け身が取れている時は両手で前腕をマットに着けて衝撃を受けているのがわかります。




引用:njpwwprld.com

余談ですが、脱臼をすると肩にある三角筋の膨隆が減り、肩の骨が出っ張って見えるのが特徴的です。

通常の肩⬇︎

引用:njpwwprld.com

受傷直後⬇︎

引用:njpwwprld.com

飯伏選手の三角筋も通常時と比較すると、受傷後は丸みが減って肩の骨が出っ張って見えます。

ほんの一瞬の出来事の中に複雑なストレスが強くかかっているのが理解できると思います。

2011年9月にフェニックススプラッシュだったか、ファーヤーバードスプラッシュだったかを放った際にも肩関節を脱臼していますが、その時は今回とは反対の左肩でした。


引用:njpw.co.jp

今回の件で思うこと

私は普段、医療現場で働いており、入院患者さんが急変したり体調を崩す場面に遭遇したりします。

そういった場面でテンパってしまうと適切な処置や対応が遅れてしまい、事態が悪化してしまいます。

そうならないために、現場では普段から患者の急変時の対応や周囲への配慮などをシュミレーションします。

その中で大事になってくるのが、患者の状態確認や安全確保、すぐに助けを呼ぶ、、などあります。

今回の件では、

①海野レフェリーがすぐ試合をストップさせたこと
②林リングドクター、三沢トレーナーがすぐ来たこと
③スタッフやヤングライオンが集まって来たこと

これが素晴らしかったと思います。

レフェリーが状況判断し試合を止めて、すぐにメディカルスタッフが対応できた。
まずはこれだけでもさらなる重症化を防ぐことができます。

さらにはヤングライオン達もリングに入り、飯伏選手を取り囲みました。


引用:njpwwprld.com

これには、

・メディカルスタッフの指示に対してすぐ動ける人が多くいること
・脱臼の整復時に動き回らないよう抑えられること
・周囲の目から見えにくくすること

という役割があります。

これ、医療現場ではホントに大事なことなんです。

リハビリ室でも急変するとすぐにパーテーションで周囲から見えないようにします。

これは患者のプライバシーを守ることと、周囲に不安感を煽らないようにすること、などの理由があります。

これをスムーズにやれていたのが素晴らしいと思いましたし、よく見るとヤングライオン達がリングに入るよう指示していたのはオカダ選手でした。
⬇︎


引用:njpwwprld.com

極め付けは、三沢トレーナーが脱臼の整復をしている際に、飯伏選手の苦痛なうめき声が聞こえたのですが、その状態を見てオカダ選手が音楽のボリュームを上げるようスタッフに指示していました。
⬇︎


引用:njpwwprld.com

お客さんに飯伏選手のうめき声が聞こえないようにする配慮だと思います。

この一連の流れは、医療従事者の立場から見ても私は素晴らしいと思いました。

不慮のアクシデントが起きた際のスタッフ、選手の対応は評価すべきだと思います。

特にオカダ選手の飯伏選手やお客さんに対する立ち振る舞いは素晴らしかったです。

最後に

今回のG1climaxの結末は衝撃的ではありましたが、選手の皆様には本当に命懸けで戦っている姿を見せていただきました。

飯伏選手のケガは心配ですし、しっかり療養して欲しいと願っております。

これだけ体を張って戦うレスラーの皆様にはリスペクトしかありません。

今回の試合で思ったのは、レスラーが戦えるのは、まさにレフェリーやメディカルスタッフ、若手レスラーや音響スタッフさんや映像スタッフさんなど、すべてのスタッフさんの協力があってこそだなと感じました。

新日本プロレスのチーム力と、オカダ選手の素晴らしさが見れて感動した興行でした。

飯伏幸太選手がしっかり療養し、また復活して強く、華麗なプロレスを私たちファンに見せる日を待ちましょう!

今回は以上です!
読んで頂きありがとうございました(^^)

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